2010年7月14日水曜日

『命と向き合うデザイン』 

 再生医学



薬物を用いる治療は,様々な治療法の中でも一般的です.しかし,組織の欠損など不可逆的に人体の内外が損傷を受けた場合には医薬では治療できません.そこで従来は,臓器移植や人工臓器埋込術といった方法で治療されてきました.しかし,前者に関しては供給される臓器数に限りがあることや,倫理的問題の残存が問題視され,後者に関しては臓器によっては未だ十分な機能・性能が得られていないという現実があります.更に両者に共通して言えることは生体適合性の問題です.臓器移植では,親近者同士であっても免疫抑制剤が必要であり,その副作用による影響も無視できません.一方,人工臓器埋込術では,異物に対する防護機構として血栓形成・免疫応答・炎症反応・排除反応などの可能性,機器そのものの機能低下が懸念されます.これらの短所を補う形で進められて来たのが再生医学です.再生医学とは,組織が欠損した箇所に対して,主に細胞や生体組織を工学的に再構成・培養・増力し,組織の生体誘導を手助けするための細胞の周辺環境を工学技術・方法論を用いてつくり与え,移植することで生体側の再生能力を発揮させ治癒を促す研究・治療を行っている分野です.類似の名称として再生医療・再生医工学などといった名称も用いられていますが,対象領域はほぼ一致しています.ただし,再生医学が基礎生物学医学研究の発展を目的としているのに比べ,再生医療はあくまでも直接患者の治療に活用することを目的としています.その目的を端的に表すと「大きく損傷したり失われた生体組織と臓器の治療のために,細胞を用いてその生体組織と臓器を再生あるいは再構築する技術の確立」となります.訳語の元になった用語は「Tissue engineering」であり,日本語の直訳が生体組織工学であることからもわかるように,生体組織を対象とした工学的内容を強く持つ分野です.元々,移植肝臓不足からくる肝不全による子供達を助けるため,肝細胞を増殖し,肝移植に利用したことに端を発します.

・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006