『命と向き合うデザイン』 

 心臓−2


心臓は全ての器官に血液を送り込むポンプだが,そこには心臓も含まれます.心臓の内側には常に大量の血液が蓄えられていることを考えれば,そこから酸素や養分を摂取することが最も効率が良いように思えます.しかし,ヒトの心臓はそのようにはできていません.は虫類や両生類では心臓の内側表面を使って血液から直接酸素を取り入れることができます.ヒトとの大きな違いは姿勢です.ヒトの姿勢は基本的に上体が起き上がっています.そのため,脳などの器官は心臓よりも上部に位置するため,心臓はその位置まで血液を送らなければなりません.心臓内に酸素や養分を吸収するための孔が存在すると,収縮期に十分な血流速度を得ることが難しくなります.そのため,ヒトの心臓は進化の過程で他の方法で血液から酸素や養分を摂取するようになりました.それが冠状動脈と呼ばれている血管であり,大動脈の付け根部分から心臓の表層に張り巡らされています.太さは2mm程度と細く,流量は血液全体の約5%程度です.しかし,心臓が消費する酸素量は全身の約20%にあたり,5分の1の酸素が心臓を動かすためだけに使用されます.心臓を動作させている筋肉は心筋と呼ばれ,構築している細胞は心筋細胞と呼ばれています.心臓は連続的な心筋細胞の緊張と弛緩によって,全体として拍動運動を行っているように観察されます.あらゆる筋肉が,弱い電気信号によって収縮することは以前から知られていますが,心筋も同様に電気信号によって動作します.ただ,骨格筋などの随意筋とは異なり,全てが不随意筋でできているため,意識化で動作させることはできません.また,他の筋肉が神経繊維によって電気信号を伝達するのに対して,心筋は,特殊心筋によって伝達されます.心筋はこの特殊心筋と普通心筋の2種類が組み合わされています.特殊心筋は洞房結節・房室結節・ヒス束などと呼ばれ,大静脈との結合部近くにある洞房結節で発生した約50mA程度の電流が房室結節,ヒス束という順に伝達され,心臓全体が動作します.生まれた瞬間に,一番最初の電気信号がなぜ発生するのかは未だに解明されていません.また,一般的に身体的負荷や精神的負荷を受けると,「ドキドキ」という表現で表されるように,拍動数の増加が認識できるようになります.これは電気信号の発生速度が変化することによって,普段は意識されない拍動が容易に体感できる状態になったものです.

・南淵 明宏, 心臓は語る, PHP研究所
・小柳 仁, 心臓にいい話, 新潮社
・磯村 正, 治せない心臓はない, 講談社
・長山 雅俊, 心臓が危ない, 祥伝社
・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社
・日本人工臓器学会, 人工臓器は、いま―暮らしのなかにある最先端医療の姿, はる書房

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