『命と向き合うデザイン』 

 再生医学−3


さらに再生の原理を詳細に観察してみます.生物が行っている再生の方法は2種類に分類され,それぞれを代表するような生物がいます.1)再生の種となる細胞である「幹細胞」を準備して,高い再生能力を発揮している生き物(プラナリアなど)=幹細胞利用.2)既存の細胞を一旦「リプログラミング」してから必要な細胞をつくって再生を実行している生き物(イモリなど)=細胞のリプログラミング利用(iPS細胞).細胞の中でも,最も様々なモノに分化できる細胞を有しているのは受精卵です.受精卵から分裂して色々な種類の機能に分化した細胞を分化細胞と呼びますが,受精卵はあらゆる種類の分化細胞を生みだすことができます.一般に多細胞生物は成長とともに細胞の数を増やし,個体として機能するために必要な種類の細胞をつくる必要があります.幹細胞¬はその特徴として,多分化能と自己増殖能を併せ持つため,多細胞生物の成長にとって必要なことを同時に行うことができます.しかし,幹細胞は分化するにしたがって,やがて全て分化細胞に変わり,成体になると幹細胞としての機能はほとんど失われ,一部の組織に組織幹細胞が残るのみになります.受精卵から分化するしばらくの間は全能性幹細胞の状態を維持したまま増殖します.この状態の細胞を胚から取り出し,全能性状態を維持したまま培養した細胞がES細胞です.さて,再生の研究においては,プラナリアの研究が盛んに行われます.プラナリアは無脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つと言われているため,再生医学に関する研究対象としては最も適していると考えられるからです.その研究からプラナリアの再生メカニズムはおおよそ以下のような流れがあることがわかっています.1)傷口の修復.2)再生芽の形成.3)不足部分の先端の形成.4)頭から尾までの身体の領域性の再編成.5)必要な細胞の供給.ここで言う身体の領域性とは身体の位置情報のことです.多細胞生物が個体を形成する場合,まず,形成する場所の座標をつくり,その座標に沿って幹細胞を制御し,形と機能をつくりあげていく,というプロセスが存在します.無脊椎動物の代表はプラナリアでしたが,一方,脊椎動物の中で最も高い再生能力を持つ生物は,イモリです.

・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

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