『命と向き合うデザイン』 

 再生医学−4


脊椎動物の中で最も高い再生能力をイモリは,尻尾や手足だけではなく、顎や脳、眼、心臓などの組織や臓器の一部を再生できる.このイモリに関する研究から,以下の2点が明らかになっている.1)多細胞生物の各細胞は,受精卵から分化した後も全ての遺伝子情報が保存されている.2)分化した細胞でもリプログラミング(殖細胞や体細胞など分化の進んだ細胞が多能性や全能性を再獲得すること)可能である.一度分化した細胞は脱分化を行い,元の形質を失った状態になる.そして目的の細胞へと改めて増殖・分化を行っていく.このことから脱分化した細胞も幹細胞様の性質を有している可能性があることが示唆されている.このように再生に用いられる細胞は「幹細胞由来」か「分化細胞由来」ということになるが,分化細胞の脱分化を幹細胞へのリプログラミングと考えると,結局は幹細胞由来と言える.ヒトのような多細胞生物の再生に関する治療を考える場合、細胞の分化状態をどのように制御するか,ということが極めて重要になってくる.リプログラミングは従来は核移植を行うことでしか実現できなかった.ここでiPS細胞を考えてみると,その作成に関して「転写因子の遺伝子発現を制御することで,細胞の分化状態を人為的にコントロールできることを初めて示した」という功績が大きいと言える.従来は核移植でしかリプログラミングできなかったことを,4つの遺伝子を操作するだけで可能にしたのである.このことから再生医療を実現していく上で重要なコトとして,1)細胞の分化状態を分子レベルで理解する.2)位置情報の制御が行える.の二つがある,とする論がある.

・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

このブログの人気の投稿

『命と向き合うデザイン』 

 "形而上と形而下"

Method: IMRADとは何か。何がIMRADか。

風で飛ばない秋桜