2010年7月31日土曜日

『命と向き合うデザイン』 

 細胞シート工学−1



生分解性高分子などによる足場を用いず,細胞が互いに接着することでシート状になっているものを細胞シートと呼びます.細胞シートの作成には温度応答性高分子であるN-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)を表面に修飾した培養皿が用いられます.PIPAAmは水中で相転移温度(32℃)を持ち,それ以上で高分子鎖が脱水和し,イソプロピル基間の疎水性相互作用により凝集して沈殿します(疎水性)が,32℃以下では水和し溶解します(親水性).これにより温度変化によって修飾表面のぬれ性を制御可能になります.細胞の培養条件である37℃では表面は疎水性を示すため細胞の接着・伸展は良好に行われ.これを表面温度を32℃以下に下げることで表面が親水化し、細胞が自発的に脱着します.多くの細胞接着にはアミノ酸配列(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸;RGD)が密接に関係していることが知られています.このRGDとPIPAAmを培養皿表面に修飾することで,培養から回収までを高効率で行える培養皿の研究が行われました.原理を考えます.温度応答性高分子は相転移温度以上で脱水和・収縮するため,RGDは表面に露出します.この時、細胞は細胞膜タンパク質であるインテグリンを介してRGDを認識し,培養皿に接着・伸展できます.一方、相転移温度以下では高分子鎖は水和・伸長するため,RGDは高分子層の中に埋もれ、細胞が認識しにくくなり結合が弱まります.こういった細胞接着に関するリガンド−レセプター間の作用は,抗原−抗体や酵素−基質間などのように体内でもさまざまな形で見られます.

・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009
・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010
・立石哲也, 田中順三: 図解 再生医療工学, 工業調査会, 2004
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