『命と向き合うデザイン』 

 人工心臓−5


ここまで述べてきた内容から,人工心臓または人工心臓埋込手術に関する問題点をまとめる.問題点は患者自身の生体に関わることと,人工心臓そのものに関わることに分類される.それぞれ,生体に関わるものは「血栓形成」と「感染症の誘発」であり,人工心臓に関わるものは「耐久性」と「熱発生」である.これらの中でも最大の問題は血栓形成である.生体適合性という言葉は未だ定義されておらず,法律的な規制もないため,臨床家や研究者の間でも意見がわかれているところであるが,その主な現象は異物に対する身体の防護機構として次の4つを挙げることができる.1)血栓形成,2)免疫応答,3)炎症反応,4)排除反応.この内,人工心臓に最も影響を与えるのは血栓形成の問題である.血栓は血流に停滞箇所が発生するとその付近で形成される.血栓そのものが人工心臓内において機器動作の妨げになることも問題ではあるが,それ以上に形成された血栓が血管を通過し,脳等,他の臓器の毛細血管内に塞栓をつくる方が問題としては甚大である.生体の防護機構が誘起される原因は主に人工物の表面上にタンパク質吸着層が生成され,血球成分などの細胞が付着するためと考えられている.そのため,人工心臓内の表面素材の改良が続けられている.次に感染症に関しては,体表に開けられた孔によるところが大きい.そのため,現在は2つの視点から研究が進められている.1つは孔の周辺のシールする方法であるが,これは素材の研究が進められている.もう1つは孔を用いない,つまり,すべての要素を体内に納めるか,または経皮的に体外から必要は要素を送り込む方法の研究である.具体的なものとしては電力供給が挙げられる.心臓は1日24時間何十年という期間に渡って動作を続けなければいけない.その際に一番問題になるのは電池部の寿命である.現在,一般的な製品に用いられているリチウム−イオンなどの電池をいくら体内に保有できたとしても賄いきれる量ではない.そこで,経皮的に体内電池に充電する方法が研究されている.具体的には体外・表皮コイルを使って,体内にある二次コイルに電磁誘導で充電する方法がある.

・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社
・許俊鋭, 斎藤明, 赤池敏宏: 人工臓器・再生医療の最先端, 寺田国際事務所/先端医療技術研究所, 2006
・筏義人: 患者のための再生医療, 米田出版, 2006
・筏義人: 再生医工学, 化学同人, 2001
・田畑 泰彦: 再生医療のためのバイオマテリアル, コロナ社, 2006

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