『命と向き合うデザイン』 

 背景−4


今後,再生医療の領域は国際的な競争力が必要になります.現在の世界市場における日本国内の医療機器産業を見てみると,国内市場に占める輸入医療機器の比率は1995年(35.5%)から2004年(46.4)にかけて著しく増加しており,平成18年には金額にして1兆910億円程度になっています.特にペースメーカーやICDは100%輸入に頼っており,PTCAカテーテルも約80%は輸入品です.日本での治験に必要な時間は,国内メーカーでも海外メーカーでも変わりはありません.それにも関わらず,海外メーカーが日本国内での販売に力を入れる理由として,日本が医療保険制度が完備されていることが挙げられます.メーカーは医療費として確実に利益を得ることができるため,たとえ治験が長期に渡り,コストが増加しても市場価値は十分に大きいと判断されています.逆に,国内メーカーは長期に渡る治験に掛かるコストとリスクをよりも,海外で治験を行い,まず,海外から先行販売を始めます.その後,日本国内での製造許可申請を行う場合が増えてきています.テルモハート社製のDuraHeartという補助人工心臓はまさにこの手順を踏んでおり,現在,日本国内で許可申請を行っているところです.つまり,海外ではすでに販売が開始されているにも関わらず,日本国内では入手することができません.日本に積極的に医療機器を持ち込む海外メーカーに対して,国内医療機器メーカーは,特許などの権利を取得することによって,独自の技術を守りつつ,海外メーカーと戦う必要があります.また,日本の製品は欧米諸国に比べ製品精度は優れています.これは製造管理が厳しい医療機器分野においては強みになります.クラスⅣの高度管理医療機器なども製造できる精度を有しています.元来,貿易立国である日本にとって経済効果が大きい医療機器や医薬品は,国内で製造を行い,積極的に輸出を行うべき領域です.治験が難しい製品はクラスⅣやクラスⅢのように患者へ及ぼす影響も強い製品です.そういった製品を海外メーカーに委ねることは安全・安心という点からも改善していく必要があると考えます.

・中辻憲夫, 中内啓光: 再生医療の最前線2010, 羊土社, 2010
・福崎 剛: 最新医療機器業界. 株式会社ぱる出版. 2008.
・厚生労働省医政局, 薬事工業生産動態統計 平成20年度 年報, じほう, 2010
・東嶋 和子, よみがえる心臓―人工臓器と再生医療, オーム社

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