『命と向き合うデザイン』 

 新・細胞シート工学−4


ここからは特に細胞シートを用いた心臓への治療について言及します。2007年に大阪大学医学部附属病院にて心筋梗塞患者への自己由来細胞シートの移植手術が行われました。この例を参考に、細胞シートを用いて治療が可能とされている心疾患についてまとめます。現在、大阪大学にて細胞シートの治療対象としているのは「拡張型心筋症」および「虚血性心筋症」の二つの疾患です。心筋梗塞はこの内、虚血性心筋症に含まれます。拡張型心筋症、虚血性心筋症ともに極めて危険度の高い、重症心筋症と呼ばれる重篤な心疾患です。心筋症は「心機能障害を伴う心筋疾患」と定義はされていますが、未だに原因がわからないものもあります。厚生労働省の発表では心筋症による死亡者数は、悪性新生物に次いで多いとのことです。また、1998年に実施された厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班による病院受診者を対象とした全国調査の1次調査を見ると症例数は拡張型心筋症が6341例であり、全国推計患者数は17700例にのぼります。虚血性心筋症も心筋症の中では拡張型心筋症と合わせてその大部分を占めています。虚血性心筋症は元々は欧米で多かった疾患だが、近年では、食生活の変化により日本でも増加していると言われています。拡張型心筋症とは、心筋の細胞が変質し、伸びてしまう疾患です。変質した細胞は収縮能力が失われ、心臓全体のポンプとしての機能が著しく低下します。原因は特定できておらず、国内では特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。従来の根本治療は心臓移植のみでした。

・Richardson P, McKenna W, Bristow M, et al.: Report of the 1995 World Health Organization/International Society and Federation of Cardiology task force on the definition and classification of cardiomyopathies. Circulation 1996, 93: 841-842.
・厚生労働省大臣官房統計情報部, 平成19年 人口動態統計月報年計(概数)の概況, 厚生労働省
・Memon IA, Sawa Y, Fukushima N, et al: Repair of impaired myocardium by means of implantation of engineered autologous myoblast sheets. J Thorac Cardiovasc Surg Nov 130(5): 1333-41, 2005

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