2010年10月1日金曜日

『命と向き合うデザイン』 

 細胞シートによる治療−3



培養速度とは、細胞の培養に必要な一定時間に関する問題です。現在、心筋の治療に必要な筋芽細胞の培養には、およそ4週間必要です。多少の個人差はありますが、多くの場合約1ヶ月の時間を要します。一つ目の固体差異に関する問題と、2つ目の「細胞速度」は培養時間に関する問題として密接に関係しています。もし、対象の細胞が培養を行っても規定数に達しなかった場合、4週間後にもう一度採取から始めなければいけません。つまり、治療が決定してから合計8週間(約2ヶ月)後に治療を行える状態が整うことになります。もし、細胞が規定の時間で規定数に達したとしても、患者が救急車で病院まで運ばれてきた直後に細胞を採取できたとして、そこから約1ヶ月は治療を行えないという現実があります。現在、対象疾患になっている拡張型心筋症や虚血性心筋症はともに、緊急度・重篤度が高いため、そのままの状態で待機することは不可能です。多くの場合、補助人工心臓をつけることで心機能の回復を待つことになります。また、治療に取りかかれるまでの時間は、多くの場合予後に影響を与えます。特に対象が心臓である場合、心臓だけでなく、全身に対して影響があることから、予後の影響は大きくなります。心臓を対象に検討していますが、角膜組織の治療の場合にも患者本人の口腔粘膜細胞2平方mmから約2週間掛けて角膜上皮細胞シートを120平方cm程度の大きさまで培養する必要があります。つまり、対象となる疾患や箇所によって時間は異なりますが、いずれの場合も数週間という単位で治療開始までの時間が必要であることは変わりません。また、培養しているものがヒトの細胞である以上、細胞そのものの培養速度が大きく変化することはないため、外的要因が加えられなければ治療までにかかる時間は変わらないことになります。3つ目の問題である「同疾患発症」は、遺伝的な要因を含むことから考えられている問題の一つです。現在治療対象の拡張型心筋症や虚血性心筋症は、いまだすべての原因が明らかになったわけではありません。その原因に遺伝子に依存するものがある場合、自己由来細胞シートは同様の疾患を発症する可能性を持っていることになります。

・大阪大学医学部附属病院: ヒト幹細胞臨床研究実施計画書の修正について, 第51回科学技術部会資料, 2009
・阿形清和他: 再生医療生物学, 現代生物化学入門7, 岩波書店, 2009